三浦綾子記念文学館が掲げる3つの指針の中の1つは、「愛と平和をつくる「平和文学館」」です。
三浦綾子が願った、愛と平和の暮らしを発信する拠点に。
三浦綾子は、自身の体験から強く平和を願い、発言し、行動してきました。すべての作品に一貫して流れるその思いを、わたしたちは受け止め、守ってゆかねばなりません。人が人の生命を奪ってはならない。社会が人の暮らしを奪ってはならない。その大原則を守り、愛と平和を実現するためのメッセージを発信してゆきます。

この指針を読み上げると、今なお続くロシアによるウクライナ侵攻のニュースには敏感にならずにはいられません。
ちょうど2026年5月28日、テレビ朝日系のこのようなニュースを目にしました。
ロシア軍戦死者 50万人近くに ウクライナ側と大きな差 ドローン攻撃など影響(テレビ朝日系(ANN)) – Yahoo!ニュース
5月27日、イギリスの情報機関GCHQ(政府通信本部)の長官が、2022年2月の全面侵攻以来「50万人近くのロシア兵が戦死している」と報告したというのです。
ウクライナ側の戦死者については、アメリカのシンクタンクCSIS(戦略国際問題研究所)が、2025年12月までに約10万人から14万人が戦死したと推計しているそうです。
ドローン攻撃なども今なお続いているようですが、この膨大な数の戦死者たちの家族は、今どのような想いで暮らしているのでしょう。
かつて、新聞の連載コラムにこんな内容を書いたことがありました。『この果てに君ある如く 全国未亡人の短歌・手記』(中公文庫、1978年)を紹介したものです。
・いたましく夫(つま)と妻とを引き裂きて戦ふ国は滅べと思ふ 高知県 森下寅尾
1945年、玉音放送を耳に、どれほど多くの妻が帰らぬ夫を偲び唇を噛みしめていただろう。1949年に発表された「未亡人」の数は約180万人、うち、3割近くがいわゆる「戦争未亡人」だったという。
同年、「婦人公論」は彼女たちから短歌と手記を募集した。全国から約4200首が寄せられ、その反響の大きさに、翌年、手記と合わせて単行本が刊行された。
掲出歌は、夫婦のごく平穏な生活を「引き裂き」粉砕してしまった国家への怒り。しかし、その怒りをどこにも向けようのない悲痛さが、「滅べ」に集約されている。
・鮮(あたら)しきさしみ買はむと思へども夫なき今はおごりと思ふ 埼玉県 米山ゆき子
・父なくて生(お)ひゆく吾子(あこ)と思ひつつ髪を切りやる項(うなじ)のいとしさ 北海道 藤沢典子
働き手を失った妻子の生活は困窮し、食費もきりつめて職を探す日々となる。
手記を読むと、夫の戦死以上に耐えがたかったものが、周囲の好奇の目であった。買い物も化粧も人目を気にしながらせざるを得ない。
そんな中、子らの成長が何よりも心の支えとなる。健やかに伸びる子の髪と、白いうなじを見つめるまなざしがやさしい。
・いつしかに大いなる悲しみうすらぎぬ時とふものはやさしかりけり 鹿児島県 松山翠
一瞬でも悲しみがうすらぐ「時」。だが、こう歌えるまでの、悲嘆と生活苦、孤独の「時」を、読み落としてはなるまい。
北海道新聞コラム「書棚から歌を」2010年8月15日掲載 「夫と妻とを引き裂きて戦ふ国は滅べと思ふ」
──戦没者家族たちのこのような想いを少しでもなくしていくために、いっそうの外交努力、また、私たちの意識のありようもあらためて確認したいものです。

