ロシアによるウクライナ侵攻に反対します

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“愛と平和をつくる「平和文学館」”を標榜する三浦綾子記念文学館は、ロシアによるウクライナ侵攻に反対し、三浦綾子のエッセイを紹介します。

「剣によって滅ぶ」 三浦綾子

『国を愛する心』小学館新書(2016)より

 戦争中、私は人間ではなかった。人でなしであった。なぜなら、私は軍国主義に染まった教師であったからである。私は生徒に、国のために戦うことを、人間の第一になすべきこととして教えた。全国の教師が教えたように、熱心に教えた。私は人でなしであった。

 今、核兵器の完全禁止を人々は叫んでいる。私も叫んでいる。だが私は、ちょっと立ちどまる。核戦争反対だけを叫んでいるような危惧を感ずるからだ。過去において、日本は誤った戦争を起こした。いや、戦争に誤りも正義もない。戦争はすべて、全面的に誤りである。軍国主義教師であった私は、そのことを痛感している。

 私たち女性は、文字どおり命を生み、命を育てる。生まれ出た子供に乳房をふくませながら、女性はわが子に何を望んでいるだろうか。わが子が、人をあやめ、傷つけることをねがう母親が、どこにいるだろう。いかなる理由をつけても、人が人を殺すことを認めてはならない。そのことを女性たちは知っている。男性もまた、それを知らなければならない。日本人が日本人を殺すと犯罪になり、他国人を殺したら栄誉になるという、そんな馬鹿な理屈はない。いかなる人間にも、人間を殺す権利はなく、殺せと命令する権利もない。人間が人間を尊重するということは、とりもなおさず、人間の命を奪ってはならないということである。

 私はキリスト信者である。キリストは決して、国のためなら人の命を奪ってもよいとは言わない。キリストは「なんじの敵を愛せ」と言った。「剣を取る者は剣によって減ぶ」と言った。この滅びは、命の滅びのみならず、人間性の滅びを意味する。私は核兵器はもちろん、拳を持って殺すことにも反対する。

   徴兵は命賭けてもはばむべし母・祖母・おみなろうに満つるとも ※

 某新聞歌壇にあったというこの短歌を、全世界の人に贈りたい。


※ 短歌の作者:石井百代(当時75歳)[朝日新聞1978年9月18日「朝日歌壇」に掲載]

この文章の初出:全国大学生協組合連合会「PEACE NOW!」1982年4月1日

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