新年のご挨拶を申し上げます。
昨年末の嬉しいニュースの1つは、2014年に『颶風(ぐふう)の王』(現在は角川文庫)で三浦綾子文学賞を受賞した河﨑秋子さんが、新刊『ともぐい』(新潮社)で170回直木賞候補に選ばれたことでした、
ご存じのとおり、河﨑さんは、5冊目の長編『絞め殺しの樹』(小学館)で、2022年の167回直木賞候補にもノミネートされたばかり。今回で、早くも2度目の直木賞候補となったのです。
北海道新聞2023年12月12日付の記事によると、『ともぐい』の原型は、2010年に第44回北海道新聞文学賞(創作・評論部門)で候補作となった「熊爪譚」だそうです。10年以上じっくりあたためて、ご自身の原点をあらためて確認した長編なのでしょうね。
単行本の帯文には、「新たな熊文学の誕生!!」という活字が赤赤と光っています。
熊の姿が印象的に描かれていたのは、河﨑さんの第2作『肉弾』(2017年。2019年に第21回大藪春彦賞を受賞)でしたが、今回の主役は、2頭の熊との格闘に挑む猟師の「熊爪(くまづめ)」という男性です。
時代は、日露戦争直前の明治。道東の白糠(しらぬか)や釧路などを舞台に、寡黙な熊爪と、どこか血のにおいを漂わせる盲目の少女・陽子(はるこ)との行方――。
「ただの、なんでもねえ、はんぱもんになった。でもそれでいい。それで生きる」(P227)
2頭の熊と闘い、赤毛の熊に殺されなかった熊爪の、印象的なセリフです。
全編、短文を重ねていくような引き締まった文体で、過剰さがなくぐいぐいと引き込まれます。また、真の主人公は「犬」かなあと思うと、『肉弾』との接点も感じられ、あらためて他の作品も読み直したくなってきます。
『ともぐい』は9冊目の作品ですが、すでに、次作『森田繁子と腹八分』の徳間書店からの刊行も決まっているそうです。小学館「STORY BOX」連載の『愚か者の石』も最終回を迎えたばかり。ますます忙しく、そして、筆が冴えていく河﨑さん。今年のご活躍も応援していきたいですね。
※河﨑秋子さんの北海道新聞電子版連載コラム「元羊飼いのつぶやき」は、こちらからどうぞhttps://www.hokkaido-np.co.jp/tags/akiko_kawasaki