【案内人ブログ】No.49「ヒグマとつきあう展」を視察して 記:森敏雄

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8月17日(火)東川町せんとぴゅあⅡで開催中の標記企画展を観て来た。写真家・野生動物研究家の小田島護氏は、上川町層雲峡の大雪高原温泉に棲息する特定のヒグマにK子と名前をつけ、9年間観察し続けて写真集『野生のヒグマ』を発刊した。また、羽幌町生まれで北海道初の芥川賞受賞作家寒川光太郎氏は、ヒグマ=愛嬌のある愛すべき動物としてとらえ、小説『北海道熊物語』を発表した。この二人は“ヒグマと上手につきあおう”という共存(共栄)派であった。
一方、記録文学作家で北海道に馴染みの深い吉村昭氏は、大正4年12月苫前村三毛別で発生した日本獣害史上最大の惨事を小説『羆嵐』という作品に著した。即ち、ヒグマ=危険でどう猛な動物としてとらえ、その破格な恐怖の実態を見事に再現してみせた。この事件は多くの人々を震撼させ、テレビ・ラジオでドラマ化されたり、舞台でも上演された。私はこの小説を読了したほか、大いに興味をそそられ、5年前友人と二人で苫前郷土資料館(ビデオ視聴を含む)や現地の生々しい事件跡地を見学して来た。つまり、吉村氏は前2者とは相反するアンチ共存(共栄)派であった。
熊牧場や各地の動物園などは“熊”そのものを呼び物としているのだから、当然、共存(共栄)派ということになろう。総論として、“熊”とは共存(共栄)すべきだが、各論では相手が意思疎通困難な動物ゆえ“難問山積大きな問題あり”である。ネットで調べてみると、環境省情報=①クマと会わないように工夫する、②クマと出会ったときの注意事項、というのが目を引いた。①‘一人で行動しないで集団で登下校する、クマの棲息する場所に近づかない。②’クマのことを知る、クマの出没情報に気をつける、クマに自分の存在を知らせる、クマの隠れ場所になりそうなところに注意する。つまりは、クマの食料となる農作物や放棄果樹の除去、対策者のすそ野を広げることが重要なポイントだと思った。

ところで、皆さまは外国樹種見本林(以下、「見本林」という)が入林禁止となっていることをご存じだろうか?去る7月2日見本林内の遊歩道で熊のフンが見つかり、その後上川中部森林管理署から入林禁止措置がとられた。見本林は国有林であり、東京ドーム3つ分ほぼ全域が厳しい措置の対象となった。見本林への熊の出没は開館以来初めてのことであり、前代未聞旭川の歴史始まって以来の一大珍事である。熊の出没は私たちにとって、予期せぬ寝耳に水の情報であった。駆除となれば“熊出没注意”の看板は撤去されるだろう。が、熊の出没自体が異例であり、かかる事態は見本林の魅力に何らかの影を落とすであろうと危惧している。
三浦文学館は9月30日で新型コロナウイルス緊急事態宣言が解除となり、10月1日から再開館となった。遠来のお客様には文学館のみならず、『氷点』に登場する見本林内の散策をお勧めして来たが、前述のように現在入林禁止なのは残念でならない。将来は、上川中部森林管理署に入林禁止地域の制限緩和をぜひお願いしたいものである。


話は変わるが、綾子さんも小説『天北原野』の中で、“熊”にまつわるエピソードを巧みに取り入れ、ストーリーに手つかずの自然と重厚さ・面白さを加えた。「鬼志別」という章を設けて、主婦の友社「三浦綾子全集」第7巻では343ページ、新潮文庫本『天北原野』(下)では262ページに載っている。興味のある方はぜひ読んでもらいたいと思う。綾子さんの抜群の筆力に圧倒されるであろう。
熊本県のマスコット(シンボル)キャラクター「くまモン」は実に愛らしい。北海道の市町村でも「ヒグマ=熊」を対象としたキャラクターがあってもよいと思うが、残念ながら発見できないでいる。やはり、道内はアンチ共存(共栄)派が多数を占めているということだろうか?ちなみに旭川市のマスコット(シンボル)キャラクターは、ゴマフアザラシの男の子がホッキョクグマに変身した状態をモチーフにした「あさっぴー」である。ハッピーでありたいという願いも込められているらしい。
by 三浦文学案内人 森敏雄

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