年末に向けて、忘年会やお歳暮など、交際費が増える季節でしょうか。
普段でも、冠婚葬祭や、誕生日や記念日のプレゼント、旅行に行けばお土産代など、人との交流に関わる支出は少なくないもの。家計簿でも、交際費の存在は等閑視できないものと実感しています。
そんな交際費について、三浦綾子の自伝的小説『この土の器をも』12章に、私がとても感じ入ったエピソードがあります。少々長めですが引用してみましょう。
(三浦家の家計簿には)ただ一つ異色の項目がある。「万分の一費」というのである。実はこれは交際費と名づけるべき項目なのだから、内容はさして異色とは言えない。ただ、わたしたちの家庭の、この項目の出費が多すぎた。初めはわたしも交際費と記していたのだが、あまりにも度重なると、わたしはつい苦痛になった。
「また交際費に取られてしまう」
財布をあけながら、わたしは呟いた。先ず三浦とわたしの母たちに、僅かずつだが、毎月小遣いを上げていた。これは天引である。そのほかに、餞別、結婚祝、病気見舞などもかさむ。十何年も臥ていたわたしは、実に多くの人に世話になっていた。何かあると、すぐに飛んで行かなければならない。しかも二人共三十代の半ばを過ぎているわけだから、二十代で結婚した人とは、交際の範囲もちがうのだ。
わたしの呟きを聞いて、三浦が言った。
「綾子、交際費交際費と思うと大変だろうが、いままで皆さんにおせわになったその万分の一でもお返しすると、思ってみたらどうだ」
なるほどと、わたしは直ちに家計簿の交際費欄を「万分の一費」と訂正した。『道ありき第二部 結婚編 この土の器をも』十二 より
「いままで皆さんにおせわになったその万分の一でもお返しする」というところから、「万分の一費」という呼び方が生まれています。周囲の人々に、それまでどれほど助けてもらい、支えてきてもらったことか──。
これを読んだあと、我が家の家計簿も交際費を「万分の一費」と書き換えて、長く記入し続けています。そうすると、お世話になった方々への恩返し費でもあり、大切な使い道というイメージになり、丁寧に扱うようになってきます。
みなさんの家計簿も、交際費を「万分の一費」と書き換えてみませんか? 金額よりも、お世話になった人々の顏が浮かんでくるようになること、うけあいです。