三浦綾子原作の映画をDVDで

全国的、また国際的にも新型ウイルスが話題となり、日々の報道を見守っているこのごろです。当文学館では、これまで以上に館内の徹底した清浄、殺菌、マスクの着用等に気を配り、みなさまが安心してご来館いただける環境づくりに尽力しております。

さてこの1週間、私は外出を控え、在宅で文筆業に専念しています。締切と締切の合間の愉しみは、久々のDVD鑑賞の時間です。
三浦綾子原作の映画で、現在文学館でも取り扱っているDVDは3本。さっそく、その感想を記してみます(出演者の敬称略)。

『氷点』(山本薩夫監督、1966年)
旭川の雪景色と、アイヌ文化を要所要所に織り込んだ映像美。
原作からどの部分を抽出するかが脚本家の腕でしょうが、脚本家水木洋子は、辻口病院で退院前日の患者が自死を選んだエピソードをきちんと抽出し、慧眼と感じました。原作のセリフも最大限活かされています。
キャスティングは、ベテランの余裕と貫禄が感じられ、とくに、辰子役の森光子はベストキャスト!
実は初読のことから、キップも良くて情もある辰子は、森光子か杉村春子(ちょっときついかしら?)と考えていました。
唯一、陽子役の安田(大楠)道代が高校生には見えなかった……というのは、私だけでしょうか。

 

『塩狩峠』(中村登監督、1975年)
モデルとなった長野政雄殉難の2月に観るにふさわしい、緊迫感のある映像。明治期を再現させたカメラワークに、敬意を表します。
キャストでは、ふじ子を演じた可憐な佐藤オリエが印象深く、ラストシーンまで一気に見続けてしまいます。佐藤オリエのご父堂が、三浦夫妻とも交流のあった彫刻家・佐藤忠良という縁など、さまざまなエピソードも。

 

『海嶺』(貞永方久監督、1983年)
超大作を、96分にまとめあげたスタッフの苦労が思われる作。キャストは、西郷輝彦、竹下景子、あおい輝彦、火野正平ら豪華なメンバーに加え、14歳の仙道敦子がういういしい姿をちらっと見せています。
前半、鎖国の時代とアメリカでの物語世界に入り込むまで、いくらか時間が必要ですが、後半は緊迫の映像。とくに、マカオから故郷を目指す船旅に、目が釘付けになります。故郷に上陸目前という岩吉らに向けて、容赦なく砲撃を加え、“棄民”の意思を表明する共同体――為政者の判断と、民の郷土への愛との落差は、むしろ今日的な問題でもあるでしょう。
ちなみに、漫画版の『海嶺』(いのちのことば社、2017年)もおすすめです。

平常な生活に戻るまで、今すこし時間はかかるかもしれません。けれども、一日一日のかけがえのないひとときを、大切に過ごしてまいりましょう。

田中 綾

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