企画展YouTube「『銃口』『青い棘』作中人物のことば」

北海道は、桜や、花々の彩りの美しい時季です。落ち着かない日々ではありますが、春はきちんと巡ってきて、生命を育んでくれているのですね。

さて、勤務先の大学で、三浦綾子の作品を読む全15回の授業を開講しました。受講生は、3,4年生の約100人です。現在のところ、学内のシステムを使って講義動画や資料を配信し、グーグルフォームで課題を提出してもらうという遠隔授業を行っています。

自宅待機で不便な思いをしている学生たちに、せめて、三浦綾子作品のことばを贈りたいと思い、企画展YouTube「『銃口』『青い棘』作中人物のことば」を紹介しました。

「この中で、あなたの心に届いた言葉は?」。以下、ほんの数名分ですが、学生らしい感想をご紹介しましょう――

 

『銃口』6(坂部久哉)

「男にとって女は仲間だ。女にとって男は仲間だ。生きていく仲間だ。」(「神楽岡」の章より)

→ 差別社会と言われてきた日本が常に念頭に置いておかなければいけない言葉だなと感じた。女性の差別ばかり取り沙汰されるが、男性の差別が存在してないわけではない。男性も女性もどちらも同じ人間であって、いがみあっていてはなにも生まれない。互いを尊重し合い、互いを尊敬することにより、この世はもっと良くなり、素晴らしいものになるのではないだろうか。

人間、誰しもが間違いを起こす。その時にどれだけ自分と向き合えるのか、どれだけ自分を疑えるのか。それをできる人間になりたいと感じさせられる言葉だったので、選びました。(T.Mさん)

 

『銃口』19(坂部久哉)

「成功ということは、有名になることでも、金持になることでもない。なろうと思う者になれたら、それも一つの成功だ。」(「手紙」の章より)

→ 将来の就職先や自分の人生を考えると、どうしても成功したいと思っている自分がいます。ですがこの言葉を聞くと、「そのようにあまり深く考えすぎないでもいいのかな。」という気持ちに不思議となります。

「本当に自分が好きなことはなんだろう。」「自分のやりたいことはどんなことだろう。」と思いながらこれから少しでも将来の自分と向き合うと、なんだか前向きになれる。そんな言葉に感じました。(M・Kさん)

 

『銃口』30(北森竜太)

「みんなとおんなじ人間は、地球始まって以来、地球がなくなるまで、二度と生まれてこないんだ。」(「裏山」の章より)

→ 自分と全く同じ人間が生まれてこないということは、よく考えれば分かることですが、落ち込んでいる時や自暴自棄になっている時などは忘れてしまいがちなので、そういう時に思い出したい言葉の一つかなと思いました。

また、自分に関わってくれている人や、関わりのない多くの人々も、二度とは生まれてこないということを忘れないように過ごすことが出来たら、現在のような大変な状況でも一人ずつのことを敬えるのではないかなと考えることも出来ました。

この動画は全体的に心に響く言葉が多かったため、一つには絞りにくかったのですが、同じ人間は二度と生まれてこないというのは根本に関わるものかなと思ったため選びました。(K・Yさん)

 

『銃口』69(山田曹長)

「命って厳粛なもんだろう? 様々な人生があって、様々な汗や涙があって、ようやくわれわれがいるというのに、自分一人の命を軽んじて自決などしたらどうなるか。」(「命」の章より)

→ コロナウイルスの影響で生活の全てが変わってしまい、学校にも行けない、大好きなショッピングもできない、全てが規制された生活で生きていることが辛くなってしまっている人がたくさんいると思います。わたしもそうです。今まで伸び伸びと好きなことをして生きてきた分拘束された生活がとても辛いです。自分や家族を守るためだとはわかっていますが、生きるのはとても難しいと実感しました。

ウイルスによる肺炎で多くの人が亡くなっています。生きたくても生きられない人がたくさんいるこんな状況だからこそ、一人一人が自分一人の命の重みを感じなければならないと思いました。(K・Tさん)

 

『青い棘』10(邦越康郎)

「どの国の者たちも、本当に戦うべき相手が誰であったか、それを知らなかったように康郎は思う。」(「雲の影」の章より)

→ この言葉は、戦争というものの悲惨さのみならず、兵士の葛藤などを込めた言葉などではないかと考える。(T・Sさん)

 

『青い棘』22(邦越康郎)

「武力の行使より先に、話し合いという場が、国家間にはあることを忘れてはならないと思います。」(「原爆忌」の章より)

→ 現代でも外交問題の最後の手段として武力行使が挙げられることがありますが、どんなに問題が深刻化しても戦争だけはいけないと思います。戦争が起これば必ず誰かが死んだり傷ついたりしてしまい、その「誰か」は自身か「私たち」の大切な人であるはずです。

戦争は他人事ではないと思います。戦争で誰かが傷つくとわかっているのなら、どんなに時間がかかっても話し合いを行うべきだと思うので私はこの言葉を選びました。(K・Kさん)

 

 

小説の本文を読むときと、抽出されたことばだけを読むときとでは、意外にも印象が異なってくるものですね。私は動画を見て、『銃口』の山田曹長のことばにはっとさせられました。みなさんは、どのように感じられましたか……?

実はまだ、学生たちは『銃口』『青い棘』本文は読んでいません。作中の「ことば」との出合いが、その後の豊かな読書につながることを期待しています。

 

田中 綾

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