私事ながら、この年末に新たな著書が刊行される運びとなりました。
北海道新聞日曜版で連載中のコラム「書棚から歌を」の、2021年から2025年4月までの掲載分をまとめた新書です(北海学園大学出版会)。
既刊の『書棚から歌を』(深夜叢書社、2015年)、続刊にあたる『書棚から歌を 2015―2020』(北海学園大学出版会、2021年)に続く3冊目の内容で、短歌が引用された近刊書を紹介するブックガイドでもあります。
三浦綾子の名前も2か所登場しますが、さて、どの本に関連するのか、関心を持たれた方はどうぞお手に取ってご覧ください。以下、「あとがき」の一部を転載いたします~
あとがき
前著『書棚から歌を 2015―2020』刊行のあと、現代短歌の周辺で大きな変化が起こりました。2022年前後、「現代短歌ブーム」なる言葉があちこちから聞こえるようになったのです。一般の書店でごく普通に新刊歌集が購入できるようになり、人気テレビ番組には若手歌人の出演も。「文學界」や「本の雑誌」なども短歌特集を組み、アイドルやお笑い芸人による歌会も話題となりました。十年前には予想さえしなかった変化が起こったのでした。
もっとも、「ブーム」はあくまで他称であって、現代短歌に注目する編集者、出版社、書店員の方々がブーム作りの機運を用意してくれたもの、と理解しています。
とはいえ、X(旧Twitter)では縦書き短歌の投稿があふれ、学生たちが日常生活において短歌に出合う確率も高くなってきています。そのような変化は喜ばしいものですが、個人的には複雑な想いもあります。日中戦争前後の文学を研究してきた私にとって、短歌とは、近代天皇制や歌人たちの戦争責任を考えさせる詩型であり続けています。そのような課題を想起させるからこそ、日本文化の底荷として短歌が生き延びてきたはずなのですが、近年の現代短歌の担い手(アクターとも言うようですが)は、そのような側面にはほぼ関心を持たず、恥じらいや気負いも持たずに愉しく消費しているようです。世代差、と片づけて良いものなのでしょうか……。
多々思うところはありますが、入り口はより広いほうが好ましく、本書でも近刊の読みやすい歌書などを幅広く取り上げています。それらとともに、たとえば、中根誠著『プレス・コードの影 GHQの短歌雑誌検閲の実態』、小松靖彦著『戦争下の文学者たち 『萬葉集』と生きた歌人・詩人・小説家』、『戦没学徒 林尹夫日記 完全版 わがいのち月明に燃ゆ』、『田村史朗全歌集』、安保邦彦著『旭川・生活図画事件 治安維持法下、無実の罪の物語』、栗原康著『幸徳秋水伝──無政府主義者宣言』なども紹介していますので、学生たち若い世代が目にとめてくれることを期待しています。
繰り返し読みたい、と感じたものは、篠弘著『戦争と歌人たち』、尹紫遠・宋恵媛著『越境の在日朝鮮人作家 尹紫遠の日記が伝えること─国籍なき日々の記録から難民の時代の生をたどって─』、そして東日本大震災から十年以上を経ての加島正浩著『終わっていない、逃れられない─〈当事者たち〉の震災俳句と短歌を読む』などでしょうか。厳しい出版事情のなか、良質な著書を世に送り出してくださる出版社の誠意、熱意にも感じ入っています。
『書棚から歌を 2021-2025』
(以下略)
※お買い求めは、年明けに三浦綾子記念文学館HPから、または、Amazonでどうぞ。
1,100円(本体1000円+税)での販売です。
