こんにちは、レイです。
またお目にかかれてうれしいです。
今日3月3日にちなんだ読み物を私が紹介することになりました。
突然ですが、みなさんは秋本治先生の『こちら葛飾区亀有公園前派出所』(ジャンプ・コミックス)を読まれたことがありますか。私が生まれた2000(平成12)年よりもずっと前から連載されていた漫画です(以下、作品名を『こち亀』と表記します)。
今日3月3日は『こち亀』の主人公の両津勘吉のお誕生日です。
両さん、お誕生日おめでとうございます!
作中での中川や麗子たちのような豪華なお祝いやサプライズはできませんが、プレゼントとして読み物を用意しました。
三浦綾子と『こち亀』? 接点あるの?
こう思われている方もいらっしゃるかもしれません。私もそう思っていました。
でも、父が「レイがきっと喜ぶと思って」と手渡してくれた『こち亀』136巻を読んで、考えは変わりました。読み終えてからは、多くの人にこれから紹介する「熱球の友情」を読んでほしくてうずうずしています。
早速、文学館のみなさんに相談して、今回の読み物企画が生まれました。では、本題に入ります。
「熱球の友情」(『こち亀』136巻所収)について
もし、ある日突然大切な友達がいなくなったら?
大人になって、再会した時には、全く別人になっていたら?
しかも犯罪にかかわっていたら……
本日紹介する「熱球の友情 擬宝珠纏野球少女編」はこのような話で、「週刊少年ジャンプ」2003年14号に掲載されました。ジャンプ・コミックス『こち亀』では、136巻の3話目に収録されています。詳細はこちらからご覧ください(新しいウィンドウが開き、集英社サイトに移動します)。
擬宝珠纏は両津のまたいとこの女の子。兄に教えられたのがきっかけで、少年野球をやっていました。纏の豪速球を受け止められるのは、小学3年生の時に出会った瞳小夜子だけ。気が合った二人はバッテリーを組みます。完全試合をした時には相手チームの男子生徒たちから反発されますが、二人は性別ではなく野球で勝負すればいいと言い負かしました。本格的に野球をやりたかった二人は、ソフトボールの強豪校桜稟中学を受験し、共に合格。中学1年でレギュラーになったのは開校以来二人が初めてです。
けれども、ある日突然小夜子は学校をやめ、纏の前から姿を消します。時がたち、警察官となった纏の前に再び現れた小夜子は犯罪に手を染めていました。小夜子の居場所が知りたくても、管轄外のためどうすることもできない……とあきらめかける纏に両津が手を貸します。ドキドキしながらページをめくり、読み進めると、なんと!
友達思いの両津には、纏の気持ちも、小夜子の気持ちも痛いほどわかっていたからです。
何故なら、「浅草物語の巻」(57巻の8話目)で、両津自身も同じような経験をしたからです。この話は、両津がかつての友達・村瀬賢治が手錠をかけられた状態で再会するところから始まります。逃走した村瀬を追いかけた両津がとった行動、少年時代の約束を再確認した二人の続編「浅草物語 望郷編」(125巻の9話目)は「大人になるとその友情の大切さがよくわかるぞ」[1]という両津の言葉そのものです。
みなさんに伝えたいと思った理由、ご理解いただけましたでしょうか?
綾子の小説にも似たような描写があります。
広川さんが、いつかいってくれた。
三浦綾子『帰りこぬ風』より
「この世に転ばなかった人は、一人もいませんよ」
人間にとって、転んだことは恥ずかしいことじゃない。起き上がれないことが恥ずかしいことなのだ。さあ、汝に命ずる。起きよ! 西原千香子よ!
この場面を思って胸がいっぱいになっていたところに、なんとコミックスには下の4コマ漫画が掲載されていました!
秋本先生! 両さん、纏さん、小夜子さん!
とってもとってもうれしいです。素敵なお話を本当にありがとうございました。
『こちら葛飾区亀有公園前派出所』について
秋本治先生は、1952年12月11日東京都葛飾区亀有に生まれました。高校卒業後、アニメ制作会社勤務を経て、漫画家になるまでの経緯は『Kamedas』[2]に記されています。
1976(昭和51)年4月期「ヤングジャンプ賞」に応募作品「こちら葛飾区亀有公園前派出所」が入選、同年6月21日に「週刊少年ジャンプ」(29号)に発表されたの機に漫画家としてデビュー、同年9月(42号)から『こち亀』の連載が始まりました。[3]以後2016年9月17日発売の同誌42号まで『こち亀』は40年にわたり休まずに連載されました。[4]
連載期間40年という驚異的な年数は、綾子の人生では、光世との結婚生活そのものになります(綾子は1959年5月24日に光世と結婚、1999年10月12日に77歳でその生涯を閉じました)。
二人が結婚式を挙げ、その後の雑貨店営業を経て、綾子が『氷点』から『銃口』を書くまでの間の40年間、秋本先生はずっと休まず『こち亀』を描かれていたと考えると「すごい」という言葉しか出ません。
1976年、綾子は何を?
では、『こち亀』連載開始の1976年、綾子は何をしていたのでしょうか。
連載に関しては、小説『泥流地帯』の連載が「北海道新聞」日曜版(1976年1月4日付~1976年9月12日付)で始まったことが真っ先に挙げられます。
ほぼ同時期に「週刊女性セブン」(1976年1月14日号~1977年3月17日号、小学館)では『果て遠き丘』の連載が始まりました。
この年、書下ろし小説『岩に立つ』に着手、単行本『天北原野』上下巻(朝日新聞社)、『石の森』(集英社)が刊行されました。連載原稿や随筆を記し、翌年以降の準備をする傍ら、いくつもの講演を行っています。
しかし、健康面では6月18日に北海道大樹町で息苦しさを訴えます。医師からは静養すれば大丈夫と言われますが、9月には心臓発作のため、予定していたカナダ、アメリカの講演旅行を中止することにしました。自身を「病気のデパート」と言った綾子には絶えず病との戦いが続くのでした。
意外? な共通点
今回この記事を書く中で、『こち亀』と綾子の作品について、いくつもの共通点を発見しました。
まず、両津勘吉が生まれた浅草について。
綾子は自伝『命ある限り』で、1965年10月に光世の兄・健悦の案内で浅草を訪れ、似顔絵を描いてもらったことを記しています。短い滞在ながらも、この時訪れた浅草は綾子に深い印象を残したのでしょうか。
例えば、『塩狩峠』では、手相見に短命だと告げられた信夫に、ふじ子が「長生きしてくださいね」とささやく場面があります。大人になった信夫は、浅草での会話を機にふじ子を意識するようになります。『こち亀』には両津の初恋を描いた「浅草七ツ星物語の巻」(76巻の10話目)とその続編「古都の走馬灯の巻」(102巻の8話目)いう素敵な話があります。
『嵐吹くときも』(下)には、東京を訪れた文治と志津代が「宮城やら、銀座やら、浅草の仲見世などを案内されて、東京を引揚げたのは十日ほど後だった」という一文があります。
『果て遠き丘』では、「西島は東京の浅草で生まれ、浅草で育った」とあるように生まれも育ちも浅草であることがわかります。家具デザイナーとして優秀な西島と、手先が器用な両津。もしかしたら二人は年齢的にも浅草のどこかですれ違っていたのかも……これからは、『こち亀』で両津の少年時代の話を読むたびに、浅草のどこかに西島がいないかと探してしまいそうです。[5]
つぎに、光世は将棋が好きで、その腕前はアマチュア6段でした。『こち亀』にも将棋に関する話がいくつも出てきます。妄想とわかっていても、「もしもあの人と光世が対局したら……」と将棋のことはわからないにも関わらず、わくわくしてしまいました。
洋子つながりだったのもうれしかったです。
実は、両津と同じ3月3日生まれの登場人物がもう一人います。佐々木洋子といって、麗子が登場する以前の『こち亀』で、タバコ屋の孫娘として登場します。[6][7]
綾子のデビュー作『氷点』のヒロインは辻口陽子で、テレビドラマ版の初代陽子役は内藤洋子でしたから。私自身も大阪府警通天閣署交通課に芦原レイ[8]がいるのを知って「やったあ」と思っちゃいました。
まだまだお話ししたいことはたくさんありますが、今日はこのあたりで終わります。
最後に、この記事を記すにあたり、画像掲載をご快諾いただきました集英社ご担当者の方に心よりお礼を申し上げます。
レイのおすすめ『こち亀』エピソード
「おばけ煙突が消えた日の巻」 | 59巻 | 8話目 |
「両さんメモリアル」 | 69巻 | 7話目 |
「勝鬨橋ひらけ!!の巻」 | 71巻 | 9話目 |
「美食の都市 東京の巻」 | 161巻 | 9話目 |
「勝鬨橋、再び開く!!の巻」 | 181巻 | 5話目 |
「霧の中のアリア」 | 194巻 | 15話目 |
「檸檬の遠足の巻」 | 999巻 | 1話目 |
※いずれもジャンプ・コミックス
参考資料
底本
秋本治『こちら葛飾区亀有公園前派出所』ジャンプ・コミックス、集英社 1巻~200巻
参考資料
秋本治監修、週刊少年ジャンプ特別編集『KAMEDAS こちら葛飾区公園前派出所 大全集』JUMP COMICS DELUXE、集英社、1993年3月
秋本治監修、週刊少年ジャンプ特別編集『KAMEDAS 2 こちら葛飾区公園前派出所 大全集』JUMP COMICS DELUXE、集英社、2001年12月
秋本治『両さんと歩く下町-『こち亀』の扉絵で綴る東京情景』集英社新書(0265)、集英社、2004年11月
秋本治著、週刊少年ジャンプ特別編集『[こちら葛飾区亀有公園前派出所]連載30周年記念出版 超こち亀』JUMP COMICS、集英社、2006年9月
秋本治『こちら葛飾区亀有公園前派出所』999巻、ジャンプ・コミックス、集英社、2011年12月
秋本治『こちら葛飾区亀有公園前派出所』200巻(40周年記念特装版)ジャンプ・コミックス、集英社、2016年9月
こち亀超書 秋本治『こちら葛飾区亀有公園前派出所』200巻(40周年記念特装版)、ジャンプ・コミックス、集英社、2016年9月
「週刊少年ジャンプ」2016年42号(2016年10月3日号)
WEB
こち亀.com|集英社 こちら葛飾区亀有公園前派出所公式サイト (j-kochikame.com)
http://www.j-kochikame.com/
註
[1] こち亀COMICSプレビュー NO.99 第136巻 僕たちの東京タワーの巻 秋本治『こちら葛飾区亀有公園前派出所』159巻所収(ジャンプ・コミックス、集英社、2008年4月)
[2] Akimotodas[秋本治特集] 秋本治監修、週刊少年ジャンプ特別編集『KAMEDAS こちら葛飾区公園前派出所 大全集』JUMP COMICS DELUXE、集英社、1993年3月、p571-587参照
[3] MangadasⅠ “両さん”誕生㊙物語 秋本治監修、週刊少年ジャンプ特別編集『KAMEDAS こちら葛飾区公園前派出所 大全集』JUMP COMICS DELUXE、集英社、1993年3月、p109-114参照
[4] バック・トゥ1976! 「週刊少年ジャンプ」2016年42号(2016年10月3日号)、集英社、p58
[5] 綾子の『果て遠き丘』は旭川を舞台にした現代小説。西島の年齢を20代前半と仮定し、連載開始1976年から逆算して、1950年前後の生まれとして計算した。『こち亀』両津勘吉の生まれた年については「こち亀.com」を参照し、1945年~1954年頃として計算した。
こち亀.com|集英社 こちら葛飾区亀有公園前派出所公式サイト|こち亀年表|1945-1954頃 両津勘吉誕生 (j-kochikame.com)
[6] 警視庁新葛飾署交通課佐々木洋子 秋本治『こちら葛飾区亀有公園前派出所』200巻(特装版 40周年記念特装版 こち亀超書)、ジャンプ・コミックス、集英社、p94
[7] キャラ事典だよ! 全員集合!! 佐々木洋子 秋本治監修、週刊少年ジャンプ特別編集『Kamedas こちら葛飾区公園前派出所 大全集』JUMP COMICS DELUXE、集英社、1993年3月、p650
[8] 大阪府警通天閣署交通課芦原レイ 秋本治『こちら葛飾区亀有公園前派出所』200巻(特装版 40周年記念特装版 こち亀超書)ジャンプ・コミックス、集英社、p56