【2022年ゆく年くる年】年末年始読み物企画「三浦綾子生誕100年~新たな100年へ」第2章:新たな100年へ(1)三浦綾子記念文学館開館25年

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レイ
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あけましておめでとうございます レイです。
今年もよろしくお願いいたします。

今回紹介するのは、応募原稿を書いた10年後……今から50年前の1973(昭和48)年の出来事です。オイルショックでトイレットペーパーの買い占めがあった年でもあります。

このころ三浦夫妻はどんな日々を過ごしていたのでしょうか。

前回までのおはなしと過去の読み物はこちらからお読みになれます。

第2章:新たな100年へ (1)三浦綾子記念文学館開館25年

三浦綾子文学企画展2023「綾子と海」

三浦綾子記念文学館の賛助会員のみなさまには、会報にて一足先にご案内いたしましたが、三浦綾子文学企画展2023「綾子と海」が4月1日(土)より開催されます(~2024年3月20日)。

詳細は後日館報および公式サイト等でお知らせをいたします。今しばらくお待ちくださいませ。

さて、「綾子と海」というこの言葉から連想するのはどんなことですか?

『草のうた』綾子のルーツ・苫前の海、『道ありき』斜里の砂浜、『続氷点』陽子が目撃した「燃える流氷」、『海嶺』音吉・岩吉・久吉たちが漂流した太平洋……思いつくのは各々異なるかと思いますが、昨年10月12日に刊行された『三浦綾子生誕100年記念文学アルバム ひかりと愛といのちの作家』(三浦綾子記念文化財団)を読むと、もう一つの海のことを想像する人がいるかもしれません。

それは周到な執筆準備をしていたにも関わらず、ついに書かれることのなかった幻の小説〈浦上四番崩れ〉に出てくる海です。

この小説は、故高野斗志美宅で発見された資料により、存在が明らかになりました。2003年12月3日北海道新聞夕刊13面で「三浦綾子さん〝幻の小説″ 長崎の隠れキリシタン弾圧教材に 病床で取材依頼」として報じられました。この資料のうち15点は、同年12月25日まで開催された「追悼 高野斗志美展」にて展示されました。[1]

ここまでの内容から、遠藤周作『沈黙』が頭に浮かんだ方もいらっしゃるかもしれません。

2023年、遠藤周作生誕100年

遠藤周作は、1923(大正12)年3月27日に東京で誕生したので、今年2023(令和5)年は生誕100年にあたります。2021年10月~11月にかけてNHK(Eテレ)で放送された特集番組を機に『深い河』をお読みになった方もいらっしゃるのではないでしょうか。

遠藤周作は、生まれた年こそ一年違いですが、学年で考えると綾子や瀬戸内寂聴と同年になります。『沈黙』や『深い河』を読んで真面目で固いイメージを持っていたのですが、瀬戸内寂聴の『奇縁まんだら』(日本経済新聞出版社)では、遠藤周作から仕掛けられたいたずらについても書かれていました(しかも同じいたずらを複数の作家にも実行していました)[2]
作風とのギャップに驚いたのは言うまでもありません。

私・レイが生まれた2000(平成12)年の時点ではすでに故人となっていたため、パパに「遠藤周作って読んだことある?」と尋ねたら「ああ、コーヒーのCMに出ていた狐狸庵先生だろ」という返事の後にコマーシャル曲をハミングしていました。

「こりあんせんせい?」

遠藤周作の年譜で確かめると、確かに今から50年前、1973年にぐうたらシリーズ(『ぐうたら人間学』『ぐうたら交遊録』『ぐうたら愛情額』)100万部突破のベストセラーになるなど、狐狸庵ブームが起こったことが書いてあります。[3]

小説家・瀬戸内晴美の転機

さて、狐狸庵ブームが起こったこの年11月14日、小説家・瀬戸内晴美は大きな転機を迎えます。

当初キリスト教徒になろうと、カトリックの井上神父のところでキリスト教の学びをしておりましたが、最終的には出家し、中尊寺において得度式が行われました。法名寂聴。

この法名を授けたのは小説家・今東光で、綾子が授賞記念講演を行った際、一緒だった今日出海は、今東光の弟にあたります。

(ちなみに、井上神父を紹介したのは遠藤周作です)。[4]

アカシアの花咲くころ

長くなりましたが、この年の出来事をもう一つ紹介して、本日の話は終わります。

11月30日、渡辺淳一『阿寒に果つ』(中央公論社)が刊行されました。[5][6]
渡辺淳一の初期を代表する作品といっても過言ではないこの小説は、「婦人公論」(中央公論社)1971年7月号から~1972年12月号まで連載され、[7]2023年11月30日は、単行本刊行からちょうど50年になります。

舞台が北海道という以外、目立った共通点はなさそうですが、『阿寒に果つ』の第1章には、綾子にとって思い出の場所で、札幌にかつてあった名店・紫烟荘が「紫苑荘しおんそう」として登場します。[8]

1950年6月、綾子は前川正の提案で、北海道大学での診察を受けるために一緒に札幌を訪れます。二日目の検査を終えた二人は、札幌神社の宵宮祭で賑わう街を歩き、この紫烟荘に入ります。

その店で、前川正は古書店で購入した堀辰雄『菜穂子』の扉にこう書いて贈ってくれました。

綾ちゃんへ

札幌の街の中を歩いて、札幌神社の宵祭、南六条西二丁目の綾ちゃんの宿まで。それからまた夜の札幌を眺めようと、再び連れ立って、とある古本屋。和服姿の主人公に訊ねると、客と雑談中の途中、煙草くゆらせながら探ねだしてくれた一冊。著者も、主人公菜穂子もTB、そして綾ちゃんも、わたしも、大学病院に診察を受けにきた立派なTB。

モカコーヒーを飲みつつ
札幌紫烟荘にて
正 記す

三浦綾子『道ありき』二三

前川正との思い出の場所は、第二作目となる小説『ひつじが丘』では、アカシアの花咲く6月14日の札幌神社の宵宮祭の日の夜、奈緒実が入店する場面で登場します。

小説『ひつじが丘』は、今年3月9日より、札幌座による舞台公演が予定されております(詳細はこちら)。役者のみなさんがどのように演じられるか、今から楽しみです!

最初に述べた通り、三浦綾子記念文学館は、今年の6月13日に開館25周年の日を迎えることになります。ちょうどそのころはアカシアの花が咲いていることでしょう。

以上、レイでした。明日に続きます。

(文責:岩男香織)


[1] 三浦綾子さん〝幻の小説″ 長崎の隠れキリシタン弾圧教材に 病床で取材依頼、北海道新聞夕刊、13面、2003年12月3日

[2] 瀬戸内寂聴『奇縁まんだら』日本経済新聞出版社、2008年4月15日、p273-p289参照。初出=日本経済新聞土曜日付日付2007年1月6日~2008年1月5日

[3] 山根道公編「年譜・著作目録」 遠藤周作『遠藤周作全集 第十五巻 日記 年譜・著作目録』新潮社、2000年7月10日、p362

[4] 巻頭インタビュー瀬戸内寂聴 聞き手 秋山駿 もう、書けなくてもいい——文学と人生を振り返って(2012年6月27日、寂庵にて) 朝田明子編『文藝別冊 瀬戸内寂聴〈増補新版〉愛と文学に生きた99年』KAWADEムック、河出書房新社、2012年7月30日、p13

[5] 川西政明・阿貴 編 年譜『渡辺淳一の世界』集英社、1998年6月10日、p246

[6] 著作一覧(1988年3月31日現在)『渡辺淳一の世界』集英社、1998年6月10日、p252
装幀=堀文子。※堀文子は、綾子の小説の装幀もしている。

[7] 川西政明・阿貴 編 年譜『渡辺淳一の世界』集英社、1998年6月10日、p245

[8] 渡辺淳一『渡辺淳一恋愛セレクション2 阿寒に果つ』集英社、2016年4月10日、p25

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