【館長ブログ「綾歌」】『氷点』と『笑点』――文学と落語・講談 その2

「綾歌」館長ブログ

5月18日開催の「『あたたかき日光(ひかげ)三浦綾子・光世物語』刊行記念トークショー:『氷点』と『笑点』――三浦綾子と落語!?」(第33回「人文学の挑戦」@紀伊國屋書店札幌本店)、100名近い方々にお越しいただき、たいへん盛況でした。ご来場のみなさま、ありがとうございました。https://www.hyouten.com/oshirase/21634.html

この3月に真打昇進したばかりの林家つる子師匠 https://tsuruko.jp/ と、三浦綾子の小説をきっかけに北海道のテレビ局を受けたという、HTB北海道テレビアナウンサーの大野恵さんとの共演。つる子師匠と大野さんは、2016年に「第9回狸寄席」で共演(!)していたというご縁もあり、たいへん和やかな時間をご一緒させていただきました。

トークショー 林家つる子師匠・大野恵アナウンサーと 2024年5月18日
林家つる子師匠に花束を贈呈

トークショー後の5月20日にライブ配信されたつる子師匠のyoutube番組では、なんと、『あたたかき日光』&三浦夫妻の関係性は落語になりそう、という貴重なご発言も!

「田中綾先生の書かれました、三浦綾子さん、『氷点』で一世を風靡した三浦綾子先生と、夫である光世さんの物語の本なんですけれども、こちらをもとにトークショーをさせていただいて。びっくりですよ! 『氷点』が大ブームになっていた中であの『笑点』が始まったということで、これまた非常に興味深いお話をたくさん聴くことができて。

この三浦綾子・光世夫妻の夫婦関係もすごくいいな、と思うものがたくさんある本で、このお二人の物語こそ落語になりそうだな、と思うくらいの素敵な時間を過ごさせていただきました。」(7:46~8:55)

つる子師匠は、「芝浜」など夫婦の噺を多くかけているので、綾子・光世夫妻の二人三脚ぶりや、“笑い”を大切にする生き方に関心を示しておられました。また、“登場人物全員罪人(つみびと)”という『氷点』のドラマ性にも着目。たしかに、落語は江戸時代以降、人間の業(ごう)を認識し、それをむしろ肯定する噺が多く、『氷点』にも関心を持っていただけたようです。

ちなみに『あたたかき日光』では、お弁当の「紅ショウガ事件」のくだり(第一章9)にも触れてくださいました。

三浦夫妻が『笑点』を良く観ていたこと、また、『笑点』というタイトルの由来に、

1・一大ブームを起こした綾子の小説『氷点』をもじった説

2・「演芸にしろ大喜利にしろ、まさに笑いのポイントだから『笑点』とした」説

という2説があり、そのどちらもが関係があるということについては、すでに当館公式HPで、「検証:『氷点』=「笑点」? 全4話」として公開されています(執筆者:嘱託研究員(現、認証研究員)岩男香織)。

『笑点』のタイトルと『氷点』について、綾子自身が述べたこの日記も、最後は夫・光世の話題であることが印象深いですね。

〇月〇日(田中注・1989年のもの。綾子67歳)

快晴の日曜日。今日は午後520分からテレビ番組「笑点」を見る。笑うのはいい。笑うことほど体にも精神にもいいことはない。「笑点」は、私の小説『氷点』が書かれたあと、「氷点」をもじって名づけた番組とか聞いた。それで20年ほど前、ゲストとして招きを受けたこともあったが、残念ながらスケジュールの調整が利かず、行けなかった。

政治に対する批判精神が織りまぜられたちょっぴり辛い諷刺、ウィットに富んださわやかな笑い、できる限り見たいと思っている番組だ。笑うことがいかに大切かを、笑いの少ない日本の社会にあって思うことがある。三浦もよく笑わせてくれて、ありがたい夫だが。

三浦綾子『この病をも賜ものとして 生かされてある日々2』日本基督教団出版局、1994年、44頁

田中綾

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