【年末年始読み物企画】検証:『氷点』=「笑点」? (1)1963(昭和38)年12月31日午前2時

事務局ブログ

1963(昭和38)年12月31日午前2時

 皆様いかがお過ごしでしょうか。
 いよいよ2020(令和2)年も今日で終わりますね。

 綾子が応募原稿『氷点』を書き上げたのは1963(昭和38)年12月31日午前2時のことでした。『この土の器をも』には次のようにあります。

  二人は、神の前に、心からなる感謝を捧げ、もしこの作品をよしと見給うならば、世に出してくださるようにと祈った。そして直ちに原稿を荷造った。ダンボールの箱に、五十枚宛とじた原稿を、ていねいに重ねていった。原稿は、途中、雪にあっても、雨にあってもぬれないように、ビニール袋に包んだ。名札もビニールでおおった。
 その荷造った原稿を、枕もとにおいて眠り、朝になって三浦が本局まで出しに行ってくれた。十二月三十一日の消印があれば有効なのだ。その消印を二つ鮮明に押してもらって、出して来たと三浦は言った。

三浦綾子『この土の器をも』三十一

 朝日新聞社が募集した一千万懸賞小説に綾子が応募しようとしたきっかけは前述『この土の器をも』にある通り、末弟秀夫のすすめによるものでした。上記には記されていませんが、三浦夫妻の胸には大晦日ということもあり、その年の初めに社告を見て執筆を始めた頃のことや、この年の様々な出来事など、来し方行く末さまざまな思いが胸中を去来したと思われます。

 今日から4回に分けて更新する「『氷点』と『笑点』の謎を終え!」は、今年の7月に事務局長から渡された資料がきっかけとなったものです。

 笑点探偵団『笑点の謎-あの怪物番組の秘密が、いま明かされる』(河出書房新社)という本には、1966(昭和41)年5月15日より放送が始まった「笑点」の番組名の由来について二説あることが記されています。

 一つは一大ブームを起こした綾子の小説『氷点』をもじった説。もう一つは、「演芸にしろ大喜利にしろ、まさに笑いのポイントだから『笑点』とした説。番組関係者の間でもこの二説がいまだに存在しているそうです[1]

 事務局長は「光世さんから番組名は『氷点』からだと聞いたし、テレビ局の人からも直に聞いた」と申していました。が、2016年9月に刊行されたぴあMOOK『笑点五〇年史 1966-2016』には、「談志司会時代のテーマ曲だった『笑点音頭』のなかにも同様の歌詞があるため、この説が有力とされている」[2]とあります。一体どちらなのでしょうか。個人的には『氷点』説であってほしいとの願いを込めて、年末年始企画として少しずつ記事の準備を始めました。

 以下の通り、4回に分けてお届けします。

記事と更新日

2020年12月31日(木):1963年12月31日午前2時

 まず、1日目(本日更新)では、57年前の今日12月31日に綾子が書き上げた応募原稿「氷点」について述べます。

2021年1月1日(金):綾子のお気に入り「桂歌丸師匠」

 明日1月1日は、綾子の小説『氷点』と「笑点」メンバーで綾子のお気に入りの落語家・桂歌丸について記します。

2021年1月2日(土):「笑点」考案者、落語家 立川談志

 1月2日更新分では、『笑点』の企画を考えた落語家立川談志と「笑点」の前身番組「金曜夜席」を中心に記します。

2021年1月3日(日):五代目 三遊亭圓楽――「笑点」の名司会者

 最終日1月3日は、『笑点』の名司会者・五代目三遊亭圓楽を紹介するとともに、最終的に『氷点』=「笑点」なのか私なりの結論を出したいと存じます。

 本稿では文中での敬称は原則省略いたしました。予めご了承願います。
 参考文献は最終日に記します。

 参照すべき書籍の見落としや、詳細を記すべき事柄や考察すべき点があるかと存じますが、落語に関しては門外漢のため初歩的な記述にとどまったことをご容赦いただければ幸いです。お気づきのことがございましたら当館までご一報いただければ幸いです。  

 本稿を準備中に林家こん平氏の訃報が届きました。謹んで哀悼の意を表すとととに「笑点」第1回目のレギュラー出演者が故人となったことにさみしさを覚えます。

文・岩男香織


[1] 笑点探偵団『笑点の謎-あの怪物番組の秘密が、いま明かされる』2001年2月、河出書房新社、p23

[2] 『笑点』はこうして生まれた ぴあMOOK『笑点五〇年史 1966-2016』、2016年9月、p102「検証!・2 実はふたつの説が囁かれる名前の由来」に以下の記述がある。

『笑点』番組名の由来には、現在もなおスタッフ間でふたつの説がある。ひとつは、「“笑いのポイント”だから=笑点」説。談志司会時代のテーマ曲だった『笑点音頭』のなかにも同様の歌詞があるため、この説が有力とされている。もうひとつが、当時流行していた三浦綾子の小説『氷点』をもじったのでは、という説。残念ながらどちらの説が正しいか、50年を経た今や真相は藪のなか。

ぴあMOOK『笑点五〇年史 1966-2016』

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