河﨑秋子さんの4作目『鳩護』刊行

「綾歌」館長ブログ

10月のこのブログでご紹介した河﨑秋子さん(三浦綾子文学賞受賞作家)、長編4作目となる『鳩護(はともり)』(徳間書店)が刊行され、さらに話題を集めています。

鳩護 - 徳間書店

これまで〈河﨑ワールド〉に登場した動物たちは、馬、オオカミ、犬、クマなどでしたが、今回は「鳩」の物語。作中人物は、出版社に勤める小森椿、27歳の女性です。一人暮らしのベランダに真っ白な鳩が突然あらわれ、数日後、ナゾの男性から「鳩護」になるという使命が宣告され――
テンポ良く進む物語で、登場人物一人ひとりの個性も鮮やかです。たとえば、椿に「鳩護」を継承させた幣巻(ぬさまき)という中年男性が、高そうなレストランでキジバト料理に舌鼓を打つシーン。おそれおののく椿に、幣巻は

「好きだから食べる。食べられるから好き。食べられない鳩のことも好きだ。俺の中に矛盾はない」

と、断言。食べる側はひどい、食べられる側はかわいそう、という価値判断とは異なる視座を提示しています。

椿が、夢の中で代々の「鳩護」の記憶とリンクする描写は、G・ガルシア=マルケスが得意とした”マジックリアリズム”ふう。非日常と日常が融合し、ぐいっと引き込まれていきます。

「鳩」と言っても、公園で見かける土鳩のほか、伝書鳩や軍鳩もあります。靖国神社の遊就館前広場の「鳩魂塔」は、軍鳩の慰霊碑ですね。他方、「鳩」は平和の象徴でもあり、1964年の東京オリンピック開会式では8,000羽もの鳩が空に放たれました。実は、そこで1羽だけ取り残された鳩というエピソードが、『鳩護』では伏線になっています。

ちなみに、今年9月刊行の、小説トリッパー編集部編『25の短編小説』(朝日文庫)にも、河﨑秋子さんの短編「洞(ほら)ばなし」が掲載されています。

25の短編小説
『20の短編小説』に続く、最強の文庫アンソロジー第2弾! ジャンルに収まらない現代小説からエンターテインメントの最前線まで、様々な手法でヴァラエティ豊かに「今」という時代を鮮やかに切りとった、25…

「洞」は、「ほら(ウソ)」でもあり、ホラーでもあり……あとを引き摺るようなこちらの読後感も、どうぞ味わってみてください。

田中 綾

タイトルとURLをコピーしました