小樽生まれ、旭川ゆかりの小熊秀雄を顕彰した現代詩の「小熊秀雄賞」(同賞市民実行委員会)が、59回目を迎えました。年を追うごとに応募数も増え、今回は全国から122点もの応募があったそうです。4月11日の最終選考会では、下記の7冊の詩集について話し合われました。
- 『乾杯』北川朱実(思潮社)
- 『ハラハラ』稲垣明宏(アオサギ)
- 『光るリム』千石英世(七月堂)
- 『わたしたちは道をつくる/ちがう生きものになるために』二条千河(私家版)
- 『サラム・アサイラム』崔真碩(夜光社)
- 『光る轍』生駒孝子(国鉄詩人連盟)
- 『ピープルライクユー』恵矢(思潮社)
ご縁があって、今年度から選考委員の末席に名を連ねることとなり、生駒孝子さんの『光る轍』受賞決定の場に同席することができました。心よりお祝い申し上げます。

7冊はいずれも趣が異なり、それぞれの世界の厚みを味わえました。
中でも、恵矢(けいや)さんの第二詩集『ピープルライクユー』(思潮社)は、暮らしと地続きで、ごく身近な知人たちに手渡したくなるような一冊でした。
16編を収めた散文詩集で、各編の語り手は、妻・母などの生活実感の中にありつつ、各々の顔があり意見も持っている個人として発語しています。現代詩が扱う「生」と「死」を、一部の文化リテラシーの高い人々だけではなく、日常の場で考えさせる(かつ、教育的・啓蒙的にならないよう注意深く文体を選択して)ような内容に見受けられました。
表題作の「ピープルライクユー」は、「歯を食いしばって耐えました」の一行から始まります。
語り手は、なんらかの災害で父、母、弟を失い、残されたたった一枚の写真を手にひとり生きている「私」。家族の喪失を受け入れるまでには時間がかかり、毎月、役所に戸籍謄本を取りに行き、記された「死亡」の文字に耐える数年間──
ピープル ライク ユー と言われました。役所でも、写真屋さんでも。
あなたみたいな人は いっぱいいるから
だからがんばって
がんばろう って
私はがんばってます。ひとりでも変にならないまま、毎日呼吸してる。
(略)
私 みたいな人って いっぱい いるんでしょうか?
コピーみたいに?
何千枚も?
私は、コピーに触れたいとは思いません。
(p70~71)
何度か読むうちに、ふいに、三浦綾子『続氷点』の中の言葉を思い出しました。
「ほうたいを巻いてやれないのなら、他人の傷にふれてはならない」
相沢順子(佐石の実の娘)の養父母の薬局で、色紙に書いて飾ってある言葉です。
「あなたみたいな人は いっぱいいるから/だからがんばって」という言葉は、はたして、「ほうたい」や絆創膏や、消毒液を持った人の言葉でしょうか。悪気のない、まったくの善意による励ましのひとことが、「あなた」を追い詰めてしまうこともある──もちろん、自覚的ではなく、ついうっかり口に出てしまったものではあるでしょう(私たちにはよくあることです)。そんなふとした善意から「あなたみたいな人」とひとくくりにしてしまうことが、「あなた」の尊厳を損なってしまう可能性があることへの無自覚は、おそらく、私たち一人ひとりにも返ってくるものでしょう。
とはいえ、この詩集は無理に三浦綾子の小説に引き寄せて読むべきものでもなく、それぞれが深読みを誘う魅力的な一冊です。
たとえば「光ってよアルミ」(p14~22)では、さまざまな属性のヒトが、わけもわからないまま「列車」に乗車しています。とはいえ、せっかく乗車したのだから降りるという選択肢には恐怖を感じるという設定は、近代国民国家に自覚なく編入された私たち国民を示しているようでもあります。
最もしみいったのは、「香りの天使」(p46~50)。女性ホームレスを排除している側に自分たちがいることを、罪悪感を適度に薄めながらもしっかり伝えています。読者にも当事者性を手渡してくれるところに、詩のある社会の意義が感じられました。 第59回小熊秀雄賞の贈呈式は、5月30日に旭川市内で行われます。
