多くの方々に支えられ、拙著『書棚から歌を 2015-2020』が、「しまふくろう新書」(北海学園大学出版会)から刊行されました。文学館WEBショップでも扱っております。
短歌が引用されている本だけを紹介するという、“しばり”のあるブックガイドですが、実は1冊だけ、短歌が引用されていない本もご紹介しています(前著『書棚から歌を』深夜叢書社、2015年の時はひそかに数冊ありましたが、笑)。
どうしても読者に伝えたく、他の歌集の短歌と抱き合わせる形で紹介したのは、本坊元児さんの『プロレタリア芸人』(扶桑社文庫、2021年)。吉本興業所属「ソラシド」のボケ担当、本坊さんの著書です。
愛媛県松山市出身の本坊さんは、20代30代を、アルバイトや派遣労働をしながらお笑いに打ち込んだそうですが、芸人としての仕事はほぼゼロ。フリーの「大工」をしながら、労働にまつわるライブトークを行った体験などが、読みやすく書かれています。
具体的な仕事内容や、先輩たちの誇らしい姿が臨場感たっぷりに描かれ、観察眼のしっかりした書き手だなあ、という印象です。
残念ながら私自身はお笑いにうといのですが、「元児(がんじ)」という名前がマハトマ・ガンジーに由来し、ご本人が要所要所でそれを思い出す箇所にも心ひかれました。
それにしても、労働とは何ぞや。
私の名前の由来であるマハトマ・ガンジーの提唱する七つの社会的大罪のひとつに、労働なき富とあります。
世間の知らぬ二十歳の頃、労働なき富とは大家さんの家賃収入のことだと思っていました。成人男性の世間知らずは、それこそ社会悪ですね。
(略 建設現場で黙々と働く荷揚げ屋さんの話題にふれる)
ブルーカラーやホワイトカラーといった嫌な言葉のある時代。インテリ太郎やブルジョアさんは、そんな仕事をしているのはそいつ自身のせいだと言う。
でも、必要なんだぜ!
誰かが運ばないといけないんだぜ!
建物の数だけ労働があったんだぜ!
だから、そんなことを言わないで欲しいんだ。必要な歯車なんだ。尊いものなんだ。
本坊元児『プロレタリア芸人』より
必要な労働、尊い労働のおかげで日々の生活が成り立っていることは、covid-19禍のただ中を生きる私たちが、あらためて実感したものでもありますね。
その本坊元児さんは、2018年秋、吉本興業の地域密着型プロジェクト「あなたの街に“住みます”プロジェクト」の「山形県住みます芸人」に就任。山形県西川町の古民家に移住し、畑と竹林を“月100円”で借りて、農業に取り組んでいるそうです。
You Tubeで、折々「本坊ファーム」での活動が報告されていますが、身体を張っての“労働”こそ、本坊さんの“芸”そのものなのでしょう。
田中 綾