2冊の三浦綾子論集

「綾歌」館長ブログ

三浦綾子生誕100年というメモリアルイヤーに、
小田島本有氏による『三浦綾子論 その現代的意義』(柏艪舎)
https://www.hyouten.net/?pid=168696978 と、
竹林一志氏による『三浦綾子文学の本質と諸相』(新典社)
https://www.hyouten.net/?pid=168697272
ほぼ時を同じくして刊行され、刺激を受けながら拝読しました。

小田島氏は、三浦綾子の作品から受けた感動を基底とし、読者の享受のしかたそのものに忠実に、解説を試みています。作品に誠実に向かい、土居健郎『「甘え」の構造』(弘文堂、1971年)はじめ、精神医学、社会学等の著作を補助線として、その感動のありかをわかりやすく解説しています。

そして竹林氏は、これまで発表されている先行研究を適切に引用し、さらに、綾子の作品中の文章の出どころ(聖書の引用など)を明らかにし、学術的・実証的に論述しています。また、文体分析とからめて三浦綾子の伝道ストラテジー(戦略)を一つひとつ具体的に明かし、その解明の手法も実に鮮やかです。

異なる方法論による2冊が、ほぼ同時に刊行されたことは、三浦綾子の小説の魅力をさぐるうえでたいへん参考になるものと思います。

さらに興味深いことに、両書には接点もあります。三浦綾子の小説と夏目漱石の小説との、共通点や差異を見出しているところです。

古くは、佐古純一郎氏が「三浦綾子の『氷点』と夏目漱石」(『三浦綾子のこころ』朝文社、1989年所収)において、「人間のエゴイズム」という文学的テーマの系列で、綾子の『氷点』を「漱石山脈の主題性をもっとも正統的にうけついだものといえまいか」と述べていました。その視点が、はからずも、2冊の新刊にも受け継がれているのです。

その、小田島氏と竹林氏のご著書について、文学館ホームページの【案内人ブログ】No.59、No.61で、森敏雄さんが、「『三浦綾子論 その現代的意義』を読んで」、「『三浦綾子文学の本質と諸相』を読んで」と、読後感を早々に発表しています。

No.59 https://www.hyouten.com/oshirase/14975.html

No.61 https://www.hyouten.com/oshirase/15075.html

森さんもいち早く、夏目漱石との接点に注目しておられます。佳き本は、佳き読み手を得られるということの証でしょう。

その意味でも、この2冊はぜひセットで読み味わっていただきたいと願っています。

田中 綾

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