〈お仕事小説〉というジャンル――May Dayに寄せて

「綾歌」館長ブログ

先月4月1日から公開が始まった、北海道の労働情報の発信と交流のプラットホーム(サイト名は未設定)に、学生アルバイト短歌や、労働にまつわる書籍の書評を寄稿しています。

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教育、奨学金、働き方改革、労働時間、保育など、さまざまなキーワードの記事がアップされていますが、著者紹介のプロフィールには、
「田中綾:札幌市生まれ。高校時代からさまざまなアルバイト、パートを体験し、働く人々の短歌、創作活動も研究テーマにしています。旭川市出身の作家・三浦綾子が、エッセンシャル・ワーカーを多く描いていたことにも注目し、道内各地で講演も行っています。」
と書いておきました。

 思い返せば、三十代後半まで、文筆業をしながら複数の職を掛け持ちしていました。TELオペレーター、販売・接客(菓子店、ラーメン店、JRA馬券売り場、飲み屋)、添削指導員、教育関連(家庭教師、採点、教材作成補助、テープ起こし)、生命保険外交員等々……。かつかつの収入ながら、先輩たちにも恵まれ、働きがいを感じて暮らしてきました。

それもあってか、以前から女性作家による〈お仕事小説〉に着目しています。芥川賞作家・津村記久子の『この世にたやすい仕事はない』(2015年)小論なども発表したことがありますが、おすすめの3冊を挙げるなら、

津村記久子『ポトスライムの舟』(講談社、2009年)=29歳、工場勤務の女性、年収163万円。かつかつ。でも、周囲の人々と助け合い、働き続けてゆく。


夏石鈴子『いらっしゃいませ』(朝日新聞社、2003年)=どんな客でも笑顔で対応しなくてはならない受付嬢。ストレス発散は、どす黒いペデュキュアを塗ること。感情労働の描写が秀逸。


小山田浩子『工場』(新潮社、2013年)=契約社員の女性。仕事は、10数台のシュレッダーでひたすら書類を粉砕すること(!)。いったいこの「工場」とは――。

桐野夏生、角田光代、三浦しをんら、現代の〈お仕事小説〉にも読みどころが多いのですが、三浦綾子作品に登場する職業も〈お仕事小説〉のジャンルの中で再考してはどうか、と考えています。
三浦作品の登場人物の職業といえば、公共交通機関の職員(『塩狩峠』)、看護師(『帰りこぬ風』)、教員(『積木の箱』 『銃口』など)、など、コロナ禍で注目された「エッセンシャル・ワーカー(Essential Worker)」も少なくありません。

また、見過ごしてはならないのは、家事労働という〈お仕事〉でしょう。エッセンシャル・ワークのうち、いくつかは家事労働が外注化されたものであることも、あらためて確認しておきたいところです。
3度目の緊急事態宣言で、「ステイホーム」が呼び掛けられていますが、家事労働の負担に偏りが出ませんように――。

田中 綾

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