ぶんまちnews・file<5>
水を打ったような静けさでした。100分の時間(とき)。
十勝岳の麓上富良野のまちで4月26日夜に行われた『泥流地帯』『続泥流地帯』の講演会は、小さな物音も全くと言っていいほど聞こえない静まり返った時間でした。200名を超える会場満席の聴衆は、壇上の『泥流地帯』の話に一様に耳が奪われたのです。語ったのは、三浦綾子記念文学特別研究員の森下辰衛さん。
開拓に入って30年、苦労に苦労を重ね、必死に生きてきた矢先に起きた十勝岳の大爆発。まじめな者にも苦難は襲いかかる、が「苦難の中でこそ人生は豊かなのです」と説いていく。
時にはユーモアを交え、時には夫光世さんを物語のモデルにした創作の裏話など多彩な話を盛り込みながら…。あっという間に時間は過ぎました。そして結び。野菜の種が蒔かれたとき、土(苦難のたとえ)で一瞬覆われる暗闇。種はやがてそれを乗り越え芽を出し成長します。その姿になぞらえ、「上富良野町はいま、本当に豊かな農業地帯に甦っている。今日の姿は90年前の十勝岳災害という苦難に挑戦し、諦めることなく情熱と希望をもって乗り越えた人々の生きた足跡があるからこそいまがあるのです」と〝生きるをつなぐ″ことの大切さを訴えます。
三浦綾子が苦難をテーマとして書いた『泥流地帯』。「苦難にあった時に、それを災難だと思って歎くか、試練だと思って奮い立つか、その受けとめ方が大事なのではないでしょうか」。作中で苦難の意味を解く母佐枝の言葉で講演が閉じられたとき、聴衆の胸にはだれにも自分の人生で出会う苦難へ真正面からむきあうことのできるしっかりした心棒ができあがったのではないでしょうか。微動だにしない会場の「静けさ」はそんなことを強く感じさせるのでした。
4月29日から10月28日まで上富良野町の3か所の会場で特別展「『泥流地帯』『続泥流地帯』生きるをつなぐ」が開催されます。
(文責:松本道男)